
配偶者から慰謝料を請求された場合の減額交渉について解説
不倫や浮気が発覚して配偶者から慰謝料を請求されたとき、「請求金額に納得がいかない」「高額すぎて支払えない」といった理由で請求を拒否したり、催告にも応じないケースが少なくありません。
一方、慰謝料を請求する側は、不倫・浮気相手に対して制裁の意味もあって現実的ではない金額をあえて設定する傾向があります。
そのようなことから、状況や交渉のしかたによっては慰謝料を減額してもらうことも可能なのです。
そこで今回は、不倫慰謝料の算定の仕方と減額できるケースを解説し、それと共に、もしも請求を拒否したり裁判になっても応じなかったりした場合の罰則についても説明しています。
減額交渉の前に支払い義務がそもそもあるのかを確認

婚姻関係にある男女には、配偶者以外の異性と性的関係を持たないという貞操義務が課せられています。浮気や不倫は不貞行為となり、配偶者(被害者)に対して慰謝料を支払う義務を負うことになります(民法709条・710条)。
不倫慰謝料の請求は、配偶者側から電話やメールなどで直接連絡されることもありますが、多くは内容証明郵便で送達されます。
内容証明郵便は、いつ、だれが、だれに、どんな内容の通知をしたかを証明する郵便サービスで、損害賠償の請求や借金の催促に用いられる方式です。
内容証明郵便に法的な拘束力はないのですが、受け取った側は重々しい印象を抱き、「速やかに対応しなければ」と心理的なプレッシャーを感じるものです。
不倫慰謝料を請求されて金額に納得がいく場合は別ですが、「なぜこんなに払わなければならないのか?」とか「高額すぎて払えない」と思う場合は、そもそも自分には慰謝料を払う義務があるのかどうか、あるとしたら金額が適正なのかどうか、下記を参考に確認することから始めましょう。
不倫慰謝料を支払う義務が発生するケース
- 不倫・浮気相手が既婚者であることを知っていながら自由意思で肉体関係を持った
- 相手が既婚者だと把握できる状況にありながら、把握せずに肉体関係を持った
- 相手は既婚者だが婚姻関係が破綻していると思い、注意を払えば破綻していないことに気づくことができたにも関わらず肉体関係を持った
- 円満だった夫婦が、配偶者の不貞行為によって夫婦関係が悪化し、離婚に至った
- 配偶者と不倫相手に肉体関係はないが、「夫婦の平穏・円満な共同生活を送る権利」を侵害するほど親密な関係にあった
不倫慰謝料の支払いを拒否できるケース
- 肉体関係があったことを示す証拠がない
- 夫婦仲がすでに悪化し、別居または家庭内別居状態にあった
- 二人だけで飲食をし、キスをしたり手を握ったりした程度で肉体関係はなかった
- マッチングアプリなどで知り合い、相手は既婚者とはわからないまま肉体関係を持った
- すでに精神的苦痛を償うだけの慰謝料を支払っている
- 不倫の慰謝料請求権の時効(不貞行為の事実及び不倫相手の身元を知ってから3年間)が完成している場合
不倫慰謝料の相場は?

不倫・浮気の慰謝料の金額については法的な基準があるわけではありません。被害者が受けた精神的苦痛を償うものなので、個々の事情や状況によって苦痛の程度が異なるからです。決まった計算式はありませんが、一般に次のような要素に基づいて算定されています。
- 有責行為(不貞や暴力など離婚の原因となる行為)の度合い
- 婚姻期間
- 婚姻生活の実情
- 未成年の子供の有無
- 請求される側の収入・負債
- 夫婦関係修復の努力の有無(謝罪や慰謝料支払いの有無など)
- ノイローゼやうつ病など有責行為によって発症した疾患の有無
- 不倫相手の妊娠・出産の有無
慰謝料の金額は、離婚後または離婚前提の場合と、離婚をしない場合ではだいぶ異なってきます。下記は裁判事例における不倫慰謝料の相場です。
不貞行為が原因で離婚に至った場合 | 100万~300万円 |
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不貞行為があったが離婚しない場合 | 数十万円~100万円 |
裁判まで行かず、当事者同士の交渉で合意に達した場合はやや高めで、離婚をした場合は150万円~300万円、離婚しなかった場合は50万円~150万円が相場となっています。
こんな場合は慰謝料を減額できる

自分に慰謝料を支払う義務があることがわかったとしても、次のような要件に該当する場合は慰謝料を減額できる可能性があります。
慰謝料の請求額が相場を大幅に上回っている
慰謝料500万円などと相場とかけ離れた高額な慰謝料を請求するケースも見られます。そのほとんどは、請求者が配偶者と不倫・浮気相手に制裁を加える意図があってのことで、すんなり承諾してもらえるとは思っていないものです。その場合は、「高くて払えない」と拒否するのではなく、支払える金額を提示することで誠意が伝わり、速やかに合意に達することが可能です。
慰謝料請求されたが支払い能力がない
ほぼ相場通りの慰謝料を請求されたが、支払い能力がないという場合も減額を要望してみましょう。その際は「不倫・浮気相手とは二度と会わないこと」や「合意内容に違反した場合は違約金を支払うこと」など、請求者の提示する条件を受け入れる必要があります。
肉体関係を持った回数が少ない
不貞行為は1回だけでも慰謝料の対象になりますが、慰謝料の相場でいえば高くても100万円までです。ただし、肉体関係は1回だけでも、親密な関係が長期間に渡る場合は減額が認められるのは難しくなります。
不貞行為に及んだ経緯に同情の余地がある
請求者(不倫をされた側)に非があり、配偶者が不倫・浮気に走ったという事例もよくあります。たとえば、性生活を拒否する、金銭管理ができない、家に帰ってこないなど、第三者から見ても不貞を働いた側に同情の余地がある場合は慰謝料の減額対象となります。
請求者自身が不倫相手に対して法に触れる行為をした
請求者が不倫・浮気相手の住所を突き止めようとして尾行したり、無言電話や脅迫電話などを繰り返すと、場合によっては刑法で罰せられることがあります。そんな罪を犯せば慰謝料は当然減額されることになります。
不倫慰謝料を減額してもらうための交渉の仕方

慰謝料の減額交渉をするときは、請求者から電話やメールなどで直接伝えられた場合は同じように本人同士で直接話し合うようにします。
内容証明郵便で受け取った場合は回答書を作成して送付するのが通例です。
直接交渉するときのポイント
請求額を減額してほしい旨を伝えるだけであれば、電話やメールでも誠意は伝わります。
その場合は「金額が納得できない」といきなり切り出したのでは請求者の神経を逆なでしてしまうだけですから、まず謝罪の意を表してから金額について話し合いたいと冷静に話すことが大切です。
なお、請求者が弁護士に依頼している場合は、その弁護士と減額交渉を行うことになります。
内容証明郵便で交渉をするときのポイント
内容証明郵便で請求された場合や、慰謝料を支払うにあたって条件を付けたい場合などは、電話ではなく書面にして同じく内容証明郵便で送付するケースが多くなっています。
減額を要望する際の書面では、自分の支払い能力を具体的に示すことがポイントです。給与はいくらで貯金の残高はいくらと明記したり、給与明細や貯金通帳のコピーを送付する方法もあります。
ただし、内容証明郵便は文字数のルールがあり、1枚につき縦書きなら1行20字以内×26行以内となっています。
複数枚に渡ってもかまいませんが、長い文書は相手にきちんと読んでもらえない恐れがありますから、簡潔に要領よくまとめる必要があります。
慰謝料請求に応じない・拒否した場合は法的にどうなる?

電話や内容証明での請求を放置したり、金額が折り合わなくて支払いを拒否したりするケースも中にはあります。その場合は民事調停にかけられることになります。
簡易裁判所での民事調停
不倫慰謝料の訴えは交通事故の慰謝料などと同じ民事訴訟なので、地方裁判所または簡易裁判所で行われます。
民事の場合は、弁護士を立てずに自分で訴訟を起こす「本人訴訟」も可能とされています。
民事調停では調停委員が双方の間に入り、担当の裁判所職員(司法委員)の助言を得ながらそれぞれの主張を調整します。
調停委員を介してとはいえ、双方が柔軟に話し合うことができるので、訴えられた側は減額の交渉もしやすくなります。
調停委員のほうも、いつまでも合意が成立しないと時間の無駄になるため、請求者に対して譲歩を勧めますから減額される確率がより高くなります。ここが裁判との大きな違いといえるでしょう。
そこで減額について合意が成立すれば、約束事や合意内容を記載した調停調書が作成されます。
この調停調書は約束事を守らなければ強制執行もできるほど法的拘束力を持つもので、もし決められた金額を期日までに支払わなかった場合は、給与や財産を差し押さえられることになります。
この調停にも出席しなかった場合は調停不成立となり、最終手段として民事裁判で決着をつけるという流れになります。
裁判は最終手段
不倫慰謝料の裁判は、請求者(原告)が裁判所に訴状と証拠を提出することから始まります。裁判所は訴状に不備がないかを審査したうえで不倫当事者(被告)の住所地に訴状を特別送達(直接手渡しする方式)します。住所地が不明の場合は勤務先に送達されることも。
この訴状には「第1回口頭弁論期日呼び出し状」と「答弁書催告状及び答弁書の記載の仕方についての注意事項」という書類が添付されています。
原告の訴状には、請求金額とその根拠になる不倫の事実が記載されています。被告はそれを認めるのか認めないのかを答弁書に記載し、第1回口頭弁論の期日までに裁判所へ提出しなければなりません。
答弁書を提出せず、口頭弁論にも出席しない場合は、被告は訴状に記載されていることをすべて認め、争う気はないものとみなされます。
つまり、原告の全面勝訴となり、原告が慰謝料を1,000万円などと法外な金額を請求していた場合は、その通りの判決が下されることもあり得るわけです。
その判決にも従わなければ、やはり給与や貯金、不動産などを差し押さえられることになります。
※離婚調停ではなく不倫慰謝料の訴えの場合は、調停を経ずにすぐに裁判を起こすこともできます。
自分一人で悩まず、無料相談を利用してプロに確認を

不倫や浮気の慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償ですから、ケガや病気の治療費のように算定基準があるわけではありません。
請求額が自分の支払い能力を超えると思った場合は、その段階で弁護士など専門家に減額について相談するのが賢明です。
慰謝料が高額で支払えないからと交渉もせずに無視し続けていれば、前述したように裁判所から訴状が届くことになるでしょう。裁判になれば解決まで時間と費用がかかるなどデメリットしかありません。
慰謝料の専門家には弁護士や行政書士がいますが、交渉や調停・裁判の代理人は弁護士、公正証書など必要書類の代筆は行政書士と、業務範囲が法律で定められています。
弁護士を代理人として交渉を一任すれば、被告は裁判所に出廷する必要がありません。紛争の最中は相手の顔も見たくないという人が多いものですが、相手と会わずにすむので、余計なストレスをためることもありません。
不倫慰謝料の減額について弁護士に依頼したいが、どのようにすればよいかわからないという方は、一人で悩まず法律相談所を利用することをおすすめします。
東京上野にある「NPO法人よつば」はとくに不倫・浮気・離婚問題に強い法律相談所で、不倫慰謝料に詳しい弁護士の紹介も行っています。相談は無料ですから気軽に利用してみるといいでしょう。
【まとめ】

ここまで不倫慰謝料を請求されたとき、減額してもらえるかどうかを中心に見てきました。大事なのは、自分に不倫慰謝料の支払い義務があるのかどうかを最初に確認することです。
しかし、支払い義務があるかどうかの判断は専門家でなければ難しく、かえって泥沼化してしまう恐れもあります。そうした事態を避けるためにも、早い段階で専門家の力を借りるようにしましょう。
先に紹介したNPO法人よつばでは、
- 弁護士に依頼すべきかどうか? 弁護士費用はどれくらいか?
- 慰謝料を減額してもらいたいがどうすればよいか?
- 離婚しないで関係を修復するにはどうすればよいか?
といった悩みを持つ方に、専門の相談員によるアドバイスも無料で行っています。
無料相談は電話やメールのほか、来所できる方は直接対面による相談も可能です。メールや電話での無料相談は年中無休ですので、いつでも都合のよいときにご利用いただくことができます。